2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

唱導と和歌

牧野淳司さんの「唱導の場から生まれた和歌ー『古今和歌集』の安倍清行と小野小町の贈答をめぐってー」(明大「古代学研究所紀要」32号)を読みました。古今集恋部556・557蕃歌は、「下出雲寺で法事をした日に導師真静が言ったことを詠んで小野小町に贈っ…

アジアの中で

福岡の叔母の孫と、街にアジア人が多くなったという話をしたら、俺らの修学旅行は戒厳令下の韓国やった、と言う。62歳、県立工業高校の卒業生です。こちらは吃驚、学校はもとより教育委員会が勇気があるなあ、と感心したのですが、当人は、あれは教師が楽…

鞆の浦

長野の友人から、鞆の浦へ行ってきた、と写メールが来ました。学部時代の部活で一緒だった仲間4人と半世紀以上も友情が続いていたが、すでに2人が鬼籍に入ったとのこと。その中の1人は広島出身で鞆の浦にお墓があり、コロナでずっと行かれなかったが4年…

構内の桜

東大構内には意外に桜が少ないのです。学生時代、赤門と正門の間に染井吉野が2本、赤門脇に八重桜が2本ありましたが、今は八重桜が1本残っているだけ。しかしその後植えたらしい木が育って来て、殊に工学部の前の並木は見事です。郵便局へ行ったついでに…

バリアフリー

久々に長距離の旅行をして、空港などで準障碍者の扱いを体験しました。しかし折角の心遣いが噛み合っていないと思うことが幾つもあったので、書いてみます。 まず羽田空港。長い距離を歩かされますが、ところどころ、小さな段差が敷物で覆ってあって、段差を…

天正本太平記の合戦場面

和田琢磨さんの論文「天正本『太平記』における節略本文の検討―合戦場面を中心に―」(「早大大学院文学研究科紀要」68)を読みました。和田さんは昨夏にも「天正本『太平記』の節略本文をめぐる一考察」(「古典遺産」71)という論文を書いていて、本ブ…

開花宣言

今年の東京の桜開花宣言は3月14日でした。靖国の標準木は年々老いてゆくのが目に見え、周囲の群衆が未だか未だかと凝視するのが気の毒だねえ、と近所の肉屋の女将と一緒に同情しました。旅先のホテルで朝のTVニュースを視ていたら、多摩にある森林総合研…

山口の蒲鉾

20日の朝はまず安徳天皇の神前にお参りしました。その後、昨年末購入された長門本平家物語の明治34年写本を、閲覧させて頂きました。黒川真頼本(関東大震災で焼失)を三田葆光が透き写しした20冊。赤間神宮は焼損した旧国宝本のほかに3点、長門本を…

梅ヶ枝餅

3月19日は父の命日。ホテルに叔母の孫3人が車で迎えに来ました。太宰府にある叔母の墓に父の分骨も入れたのでお参りに行ったのですが、途上の博多案内は、商業施設に大きなガンダムのロボットがあるとか、ワークマンショップにおしゃれ着が多くなって、…

川端ぜんざい

18日の関東は冷たい雨。しかし小さなリュックで旅に出る先はもう春の陽気らしい。やむなくお腹にホッカイロを貼って出かけました(鉄粉入りなので検査ゲートを潜る際に剥がす)。羽田ではコロナの検査はありませんが、手荷物検査がいやにもたもたしている…

西国下向

旅をしてきました、博多と下関へ。この前飛行機に乗ったのはいつだったか、10年以上前でしょうか。離陸する航空機や飛行場行きのシャトルバスなど、目的に向かってひた走る乗り物に身を任せたのは、ほんとに久しぶりで、しかもネット予約のため、手許にチ…

阿波国便り・三椏篇

徳島の原水さんから写メールが来ました。 三椏(ミツマタ) 【当地のソメイヨシノは未だしです。しかし、桜は待っている今の時期が一番良いかもしれません。 むかし、公園で三椏を1枝失敬し、学生に「これは何の木か。形をよく見て」。しばしの凝視の後、学…

古活字探偵3

高木浩明さんの連載「古活字探偵事件帖3」(「日本古書通信」1124号)を読みました。前回(本ブログでも紹介)に引き続き、古活字版か整版かを欠損活字の存在によって見分ける方法、及びその体験談を語っています。 従来、匡郭は古活字版のものを使用しなが…

ambiguous

大江健三郎が亡くなりました(1935-2023)。私よりも8歳年上。軍記物語研究は8年くらい年長の世代が元気活発で、その世代は大江に「我らが旗手」という想いを持っていたようです。私には青春時代に新風で一世を風靡した、兄貴分のイメージでした。 評判に…

國學院雑誌1390号

伊藤新之輔さんの「卯月八日の花摘みと死者供養」(「國學院雑誌」1390 2月号)という論文を読みました。旧暦4月8日に行われる、民俗学で「卯月八日」と呼ばれる行事について、近世史料をもとに花摘みの意義、竿花の機能、死者供養の場を取り上げて考察し…

山城便り・城南宮篇

京都郊外に住む錦織勤さんから、写メールが送られてきました。 日光(じっこう) 【鳥羽の城南宮に行ってきました。テレビのニュースでは、紅白の枝垂れ梅が見ごろとのことで、確かに満開で見事でしたが、椿も見ごたえがありました。 椿は開花時期が種類によ…

教養としての文学史

村尾誠一さんの『教養としての日本古典文学史』(笠間書院 2022/11)という本が出ました。1冊(全370頁)で万葉集から明治までを展望する、重宝な本です。村尾さんは中世和歌が専門で、東京外国語大学に定年まで勤め、多くの外国人留学生と付き合ってき…

春が来たら

数日、暖かい日が続き、買物に行く途中、路傍を見るとクロッカス、喇叭水仙、ムスカリが一度に咲き、木瓜も椿も花盛りになっていました。友人からは数日間旅行に出かけるとの予告メール。まもなくCOVID19もインフルエンザ並みの扱いになるというので、街には…

恍惚50周年

明翔会の山本栄美子さんから、2月28日発売「週刊朝日」の記事に引用された、とそのコピーが送られてきました。「出版50年 有吉佐和子『恍惚の人』の真実」と題する記事です。高度成長期の昭和47(1972)年、小説『恍惚の人』が出版された時は、文芸批…

阿波国便り・猫柳篇

徳島の原水さんから、こんなメールが来ました。 【将門首塚の記事がありましたが、昔、偶然に前を通りました。周囲のビルでは、机がすべて首塚に背を向けないように配置されていると聞きましたが、本当でしょうかね。神田明神で甘酒を飲み、湯島聖堂を訪れた…

コロナな日々 38th stage

狭いコンビニで荷詰めの台が一杯だったので、高い台で背伸びしながら杖を脇に抱えて袋詰めしていたら、老人から邪魔だと注意されました。彼自身が台一杯に自分の荷物を広げているからなのですが・・・手を止めずに、ああ済みません、狭いもので、と言いなが…

花山院と実資

手嶋大侑さんの「花山院と藤原実資」(「民衆史研究」104号)という論文を読みました。藤原実資は花山院の別当であったこと、その就任は長保元(999)年7月12日以降29日以前で、花山院の死去まで務めたことを、小右記などを用いて推定しています。両者…

道明寺

室内に入る日差しがどんどん逃げていくー冬至の頃には居間の奥まで差し込んでいたのに、もう縁側すれすれまでしか来なくなりました。陽だまりで新聞を読むために、椅子をずらして追っかける毎日です。2月には鉢のスパティフォラムが白い蕾を立てました。本…

猫の調停

対立がなかなか解決しない時、双方と同じように付き合うのが公正中立だという態度で行動する人は(ほんとにそう信じているのかもしれないが)、厄介です。対立抗争を長引かせ、時にはこじらせます。殊に一方が強者(集団)である場合は、結果的に弱者を抑圧…

源平の人々に出会う旅 第74回「東京・将門伝説」

「祇園精舎の鐘の声」から始まる『平家物語』の有名な冒頭の一節では、「おごれる人も久しからず」の日本の例として、「承平の将門、天慶の純友、康和の義親、平治の信頼」をあげています。承平年間(931~938)に起こった平将門の乱については『将門記』に詳…

130万円の壁

30年ほど前、ある私学で教務委員長を務めていた年、夏休みも終わり頃に大学へ行ったら、教務課の職員が、英語の非常勤講師から突然辞めるとの連絡があった、と報告してきました。秋の始業はすぐ目の前なので、代替の講師を推薦して欲しいと頼みました、と…

昆虫食

調理実習でコオロギパウダーを使った料理を食べたら父兄から苦情殺到、というニュースに、興奮気味のツイートが飛び交っているようです。世界的な飢餓到来に備える研究の必要は以前から囁かれていて、私も10年近く前、昆虫食や新たな食材開発の研究と事業…

記録の発生

松薗斉さんの論文①「中世天皇の「蔵書」についてー勝光明院と蓮華王院の宝蔵をめぐってー」(「歴史学研究」1029 2022/11)、②「絵画による「記録」についてー中世の絵巻物に見える行列絵をめぐってー」(愛知学院大学人間文化研究所紀要「人間文化」37 20…