記録の発生

松薗斉さんの論文①「中世天皇の「蔵書」についてー勝光明院と蓮華王院の宝蔵をめぐってー」(「歴史学研究」1029 2022/11)、②「絵画による「記録」についてー中世の絵巻物に見える行列絵をめぐってー」(愛知学院大学人間文化研究所紀要「人間文化」37 2022/9)、③「中世における記録の”発生”ー『法然上人絵伝』と『西方指南抄』に見える夢想記事を中心にー」(『古代中世の九州と交流』高志書院 2022/5)を読みました。何気なくこの順番で読んだのですが、著者の問題意識の発展が見えてきて、そのこと自体にも感銘を受けました。

①は、鳥羽院の経蔵であった勝光明院の宝蔵と、後白河院の蓮華王院の宝蔵に関する記述のある史料から、蔵書の内容、管理、日記の書写・執筆の背景などを推測し、隠微のうちに用意された権力継承の過程や、政界の力関係、人物評価等の新見を点描しています。

②は平安末期から中世にかけて、日記や記録文書の中に描かれている画像について、どんな行事絵が作成されたか、行事絵の目的、似絵の作成過程、宮廷女房の役割、文字による記録との相違等々、多彩な問題を説き明かしていきます。読みながら目から鱗の落ちる思いと同時に、歴史に残る、ということの内実を考えさせられました。「はじめに 1絵画の記録性 2中世における行事絵の作成 3中世における行列の絵画化 4似絵の問題 おわりに」という構成で、表もふんだんに入り、紀要ゆえの量的にも様式的にも自由な、伸び伸びとした書きぶりが幸いした好論文。専門に関係なく、一読をお奨めします。

③は法然の往生に関する夢の記述を2種の資料によって比較し、両者の編集方針の相違と共に、中世人にとって記録する行為とはどういうものだったかを考えています。今まで見てきた松薗さんの仕事は、ここに至るためのものだったのか!という感慨。