古活字探偵3

高木浩明さんの連載「古活字探偵事件帖3」(「日本古書通信」1124号)を読みました。前回(本ブログでも紹介)に引き続き、古活字版か整版かを欠損活字の存在によって見分ける方法、及びその体験談を語っています。

従来、匡郭は古活字版のものを使用しながら枠内は整版刷、と認定されていた本も、よく見ると欠損活字を繰り返し使用している例があり、古活字版であることが認定できる、というのです。また匡郭内の行頭・行末を埋める駒(空白部分を作る駒。クワタというらしい)の痕跡や、1~2字だけの誤植を訂正するために、紙面の一部を切り取って訂正した紙片を貼り付けた痕跡など、職人の手仕事がまざまざと見える例にも出遭えるそうで、まさに書誌調査で体験するわくわく感を、私たちにも伝えてくれます。

匡郭がない版本の場合はどうするか―物語など和文体の本には匡郭のないものがあります。こういう平仮名交じりの文体の場合、連綿体の文字を2,3字続けて1つの駒に彫る(連彫活字というのだそう)ことがよくありますが、例に引かれた元和9年刊の『狭衣』では、全8冊の中、同じ欠損のある連彫活字が90回も反復使用されているというのです。実際、繰り返し使われるうちに欠損部分が微妙に変化していくこともあり、その過程が摺りに反映していることもあります。

添えられた写真図版が鮮明で、稀に見られる、活字を逆さまに植えてしまった例も掲出されています。虚心に本を見てゆくと、本の方からその出自を教えてくれるようになる、と高木さんは結んでいます。本誌にはほかにもさまざまなトピックスが詰め込まれていて、飽きません。なおこの連載開始を紹介した、本ブログの「古活字探偵事件帖」(1月22日付)も転載されています。