130万円の壁

30年ほど前、ある私学で教務委員長を務めていた年、夏休みも終わり頃に大学へ行ったら、教務課の職員が、英語の非常勤講師から突然辞めるとの連絡があった、と報告してきました。秋の始業はすぐ目の前なので、代替の講師を推薦して欲しいと頼みました、と言う。辞める理由はと訊くと、意外に講師手当がよかったので、このまま続けると課税されることが分かったからと言われました、との答え。

激怒しました。そんなことは4月当初に分かっていたことだし、そもそも収入を得たら税金を払うのは当たり前。そんな理由で辞める人に代替講師の人事なんかさせるな!私学は面子が大事、舐められるな、と。その後、最初に教務委員や英語教室の年長教員に相談するものだと叱って、推薦人事は断らせました。

結婚している女性が、扶養控除の上限を気にして働き方を調整することは知っていましたが、この時、真に腹が立ちました。半年間、先生と呼んで習ってきた学生はどうなる!給料を貰う仕事とは、そんなものじゃないだろう!いま思い出しても、やはり腹が立ってきます(せめて、子供が体調を崩してとか何とか、嘘をついて欲しかった)。

税金だけでなく社会保険料のこともある。単なるアルバイトでも、稼いだら払うべきものは払うのがプライドでしょう。突き詰めて言えば、責任を持って働くなら「扶養される」という立場からは抜け出すもの。いっそ18歳以上(成人)は個人別に所得を申告し、低所得者の税率をぐっと引き下げる仕組みにしたらどうか、と考えたりもするのです。

専業主婦の内助の功を保護する意図で設けられた制度だという説明があるようですが、家事を有給化するには、また別の仕組みを考えるべきでしょう。社会保険料や税を払うのが誇りと思える社会にしたい。馬鹿げていますか。