書評京都の中世史

松薗斉さんの「『京都の中世史➀摂関政治から院政へ』を読む」(季刊「古代文化」3月号)を読みました。吉川弘文館から出た叢書『京都の中世史』第1巻(編集代表元木泰雄)の書評ですが、通史としての立脚点、企画構成そのものから論じています。私は本書を読んでいない(気にはなっていたが、この版元が手を変え品を変え、矢継ぎ早に出す通史を購入、読了するのに疲れた)のですが、書評の内容には納得しました。

約半世紀前に出た叢書『京都の歴史』(学芸書林)と対比しながら論じるのも、書評としてはユニークだが成功していると思います。本書は叢書名にふさわしく、都市としての京都、の構造的変化ー京・白河という新たな市域の形成を以て時代区分としていることに、松薗さんは注目、共感しています。つまり令制の機構外に構築されていく政治権力(令制の統治機構から逸脱して権力を拡大した藤原道長が、結果的に院政への道を開いた)の変化を追うことで、通史として一貫することができているというのです。保元物語平治物語やその頃の説話を思い浮かべて、腑に落ちるところがあります。

昇殿制度や小朝拝など宮中年中行事に関する見方も、平家物語の語る挿話を参照すると松薗さんの見解に納得がいきます。許認可制度や恒例行事は、それに参加する者たちにとって必ず二重の意味がある。そしてそれらによって旧秩序は維持され、新興階級はそれらを利用しながら作り変えていく。

『京都の歴史』を特徴づけていた林屋辰三郎の庶民史観的熱意はもはや本書にはないが、京都の空気に全身浸されて人と成った研究者たちならではの大業であると述べています。松薗さんからの添え書きには、この抜刷を発送する日、図らずも元木さんの葬儀に参列することになり、最後の手向けになってしまった、とありました。