松薗斉さんの『中世の王家と宮家 皇子たちの中世』(臨川書店 王朝時代の実像15)を読みました。小さな判で叢書の1冊だったので、一般向けかなと気軽にぱらぱらめくって、これは硬派の本だと驚き、懸命に読みました。専門外なので、日本史の方ではこういう角度の研究書がざらにあるのかどうかは知りませんが、精細な史料の考証の下、南北朝の政治動向から現代の天皇制の問題までをごく身近に感じさせられる一書でした。
書名に暗示されている通り、森茂暁さんの著書を意識しているそうですが、若手研究者にはまず「あとがき」をお奨め。過去に書いた別個の論文がじつは同じ問題を対象にしていたことに気づき、また室町・戦国期の朝廷・公家と平安末期のそれとの間の研究の空白ー形骸化しながら残ったものと新たに加わったものが混在しつつ変容していく南北朝を検討しようと考えた、との述懐が研究の個人的進展の要諦を説明しているからです。
本書の構成は、問題の所在を説く序の後、「中世の王家」と「中世宮家」の2部に分かれ、前半は1「中世王家の成立と変質」、2「中世の幼帝をめぐって」で後三条天皇から藤原道家まで、後半では3「中世王家と宮たち」で前半で述べた時期を扱い、4「大覚寺統の宮たち」、5「足利義満と王家」で南北朝から室町期の、王統を利用する権力の攻防を描き、義満は新たな王家の構想を懐いていたのであって、自分が天皇や上皇になろうとしたのではなかったという仮説を提言するに至っています。中でも4-2で両朝迭立期の背後事情を推察した論(p153前後)は、「目から鱗」の思いで読みました。本書の華は後半部だと言ってよいでしょう。
注がすべて巻末にまとめられているのはやや不便で、栞紐が2本必要か。折々ケアレスミスの脱字衍字があるのは、編集部の不親切。