京都と坂東の中世史

元木泰雄・佐伯智広・横内裕人著『平氏政権と源平争乱』(吉川弘文館)を読みました。「京都の中世史」と銘打った叢書の第2巻です。買い置きしてあった川合康さんの『源頼朝―すでに朝の大将軍たるなり―』(ミネルヴァ書房 2021/6)と重なる時代なので、並行して読みました。京都の視点はつまり従来の歴史的視点ですが、空間的に政治都市京都を描く記述があるのが、有難く思われました。

両書を読み進めながら、平家物語諸本を総体として見れば、じつによく時代の転換の要所要所を捉えているんだなあ、と実感しました(尤も、用心しながらも歴史学者平家物語を史料として利用した結果の残存かもしれません)。殊に、読み本系諸本に断片的に現れては脈絡無く消える記事のあれこれが、当時の大きな動きの一端だったんだ、と知らされ、「目から鱗」でした。改めてそれらを読み直してみたいと思います。

両書とも自信を以てさくさくと、また大きなストライドで記述を進めているので、読む方も爽快です。前者は 武者の世の到来・鳥羽院政と院近臣・権門の分裂と保元の乱平治の乱と清盛の勝利・平清盛後白河院平氏政権の成立・福原遷都と内乱・戦乱と荒廃・鎌倉殿の入京・中世荘園制の成立・院政と顕密仏教の展開・内乱と京の再生 という章立て、後者は 頼朝の遺産・河内源氏の繁栄と低迷・幼年期の頼朝と保元の乱平治の乱と伊豆配流・流人頼朝の挙兵・頼朝率いる反乱軍の動向・流動化する内乱情勢の行方・頼朝の変貌と鎌倉幕府権力の展開・頼朝の政治と建久の「平和」 という構成になっており、単なる伝記に終わってはいません。同時に読んだのは成功でした。

折から、あまりにも戯画化された頼朝がTV画面に登場していますが、この2著は現在の歴史学最新の成果を詰め込み、痛快に私たちの思い込みを粉砕してくれます。