うさぎ

子供の頃、兎を飼っていました。ペットではありません。食べるためです。当時、鶏か兎、たまに山羊を飼うのが郊外では普通でした。我が家は、母の実家が湘南地方に持っていた別荘の離れに間借りしていましたが、飼料の草を集めてくるのは子供の仕事で、近所の子たち数人で出かけていましたから、他家でも飼っていたのだと思います。兎は濡れた草を食べさせると死ぬ、と言われていたので、朝露に濡れていない草を確保するのは結構大変でした。今はペレットか何か、あるのでしょうね。

絵本に出てくる兎は純白で綺麗ですが、飼兎は茶色か黒、絶えずもぐもぐ口を動かしているだけで、ちっとも可愛くありませんでした。第一、糞が臭い。現代のペットは排泄のしつけができるそうですが、そこら中にころころ糞をするので小屋はいつも臭いました。

調べてみると、白くて目が赤い兎(日本白色種)はアルビノ種を固定したのだそうで、野兎の冬毛は白くても目は黒いのだそうです。近代初期には投機の対象になるほど流行し、日清・日露戦争中は防寒具の毛皮の需要、戦後は情操教育として小学校で飼育することが多かった、という説明には思い当たる節が多い。すると因幡の白兎は目が黒かったのでしょうか。戦時中は、白毛赤目が日章旗のイメージに合うと、兎汁を日の丸鍋と呼んだという。近代史の喪われた部分を突きつけられました。

絶えず腸を動かしていないと死ぬのだそうで、兎はよく死にました。農村出身の祖母が、死体の耳を掴んで笹藪の底に放り投げた時は吃驚しました。我が家で肉を食べた記憶は朧ですが、細切れで汁に入れ、堅い鶏肉(未だブロイラーはなく鶏肉も歯ごたえがあった)のような感じだったと思います。ベストセラーだった『山びこ学校』には、罠で捕まえた兎の皮を「そりそりむきました」という表現があって、印象に残っています。