関西軍記物語研究会編『軍記物語の窓 第6集』(和泉書院 2022/12)を読みました。関西軍記物語研究会は昨年で創設35周年、2017年12月以来の成果を元に編まれた論集です。本書には論文20本と武久堅さんによる例会100回記念の跋文が収載されていますが、量だけでなく質的にも、昨年の軍記研究の収穫の1つに数えられるでしょう。
各篇とも力作(殊に久保勇・橋本正俊・浜畑圭吾・源健一郎さんたちの論考は、各自の得意分野と水準とが定まってきた、つまり仕事盛りの仕事。城阪早紀さんの覚一本延慶本比較論は、書き終わったその先を期待するに十分)ですが、中でも私が読んで面白かったのは、①辻本恭子「『平家物語』の清盛出生譚」、②長谷川雄髙「『太平記』における「流矢」」、③マッケンジー・コーリ「畠山重忠像の二重性と北条氏」、④西村知子「判官物の展開と『義経記』」、⑤山本洋「計量テキスト分析を用いた戦国軍記の研究の方法論」などでした。
①はいわゆる清盛皇胤説を洗い直し、その真偽ではなく、平家物語諸本が清盛の出自をどう描いているか、人臣の出で初めて外戚となり、遷都にも関わった藤原不比等と重ねる意図があり、殊に源平盛衰記は頼朝を天武天皇に重ね合わせて権力の変遷を描こうとしていると論じます。②は光厳天皇が流矢で負傷する太平記記事の意味を考えるために、「流矢」「白羽の矢」の用例を拾って考察したもの。将門記にこの語がないのは意外で、目に見える語例による作業の限界を感じましたが、着眼点は面白い。③も今後必要となる着眼点。④は著者の永年の研究が体系的にまとまりつつあることを感じさせます。⑤は新しい方法が有効かどうかを吟味していますが、固有名詞、中でも人名を鍵とし、地名、数詞、年月日などに注目するのは正解だと思います。
①~④とも文章の練度はこれからの感もあるものの、身の丈に合った地点から踏み出して、大きな問題を見据えているのが好もしい。それが研究の基本でしょうから。