赤松軍記と和歌

太平記』の後を承けて、続々と軍記物語が生まれる時代がやってきます。応仁の乱の頃から各地で戦乱が起こり、それらを題材とした軍記物語を、研究者は一括して後期軍記と呼び、また室町軍記と戦国軍記に分けることもあります。近世以降は別に扱って近世軍記としたり、戦記文学という名称で括ることもありますが、それらはやがて仮名草子と呼ばれる、もっと広範なジャンルの中に溶解していきます。

後期軍記は一般的に、実録的・地域的になり、ある一族の興亡に限定されて、つまらなくなる、とされてきました。また諸本のあり方がそれまでの軍記物語とは異なり、書名や内容までも大きく変動するため、作品の同定から始めねばならず、一般の読者が読める本文の提供さえ容易ではありませんでした。

播磨国に根拠を置き、『太平記』でも重視された赤松一族を中心とした赤松軍記、もしくは嘉吉の乱関係軍記と一括される軍記物語があります。抒情性を失うと言われる後期軍記ですが、和歌は叙述の中で独特のポイントを占め、この問題をとりあげた蔵中さやかさんのコラム「和歌を詠む赤松教康ー嘉吉の乱関係軍記、寸描ー」が、花鳥社の公式サイトに載っています。www.kachosha.com

平家物語』とは違った軍記物語の世界があることが、よくわかります。掲げられた和歌は必ずしも秀歌とは言えない。むしろ俳諧歌のようにも見えるかもしれませんが、文脈の中に置いて読むとき、和歌の機能がもたらすもの、それが軍記物語という文学作品に不可欠のものであることが解ってきます。

軍記物語講座第4巻『乱世を語りつぐ』は、室町軍記とその周辺を扱います。蔵中さんにはその先触れとして書いて頂きました。すでに入稿・編集が始まっています。