東国から王城へ

軍記物語講座第1巻『武者の世が始まる』(花鳥社)が出ました。中世の軍記文学の魁といわれる『将門記』『陸奥話記』『後三年記』、『保元物語』『平治物語』、そして武士政権優位が確実になった承久の乱を描く『承久記』を論じる15本の論文と、軍記物語年表の前半が収載されています。詳しい目次は、花鳥社のHPに載っています。

軍記物語といえば『平家物語』がまず連想されるでしょうが、じつは『平家物語』はこのジャンルの中でやや特異な存在です。それは本書に並ぶ、10~13世紀成立の軍記物語、また第3巻『平和の世は来るか』で取り上げた『太平記』を見比べると納得できるでしょう。それぞれに個性の強い作品が、個性の鮮明な研究者たちによって論じられています。方法も見通しもさまざまで、国文学研究の面白さを1冊で体験することができます。各々が現在の研究の最前線ですが、中には従来の研究への痛烈な批判をはらんでいるものもあり、今後の展開が楽しみです。

表紙カバーには、秋の般若寺、伊吹山裾野の冬景色、ビル街の中に建つ将門首塚、夏の後三年合戦場跡、それに雪の鶴岡八幡宮の写真をデザインして貰いました(それぞれ『保元物語』『平治物語』『将門記』『後三年記』、そして『承久記』の重要な場面に因んだもの)。ちょっと帯を外して眺めてみてください。軍記物語が現代の我々を惹きつける理由の1つに、各地に残る伝承や遺跡に対する親近感があると考えたからです。

本書の「しおり」は豪華版です。渡邊裕美子さんの「みちのくの和歌」、中村文さんの「頼政の恋歌一首」、堀川貴司さんの「和漢混淆文をどう見るか」の3篇が詰め込んであって、これだけでブックレットになりそう。

軍記物語を学ぼうとすると、文学、歴史学だけでなく宗教や美術、民俗など幅広い分野に関わっていくことになります。やってみませんか。