頼朝政権と北条氏

坂井孝一さんの『考証 鎌倉殿をめぐる人びと』(NHK出版新書)と、永井晋さんの『北条政子、義時の謀略―鎌倉幕府争乱期を読む』(KKベストブック)を並行して読みました。どちらも大河ドラマを意識して書かれた書です。殊に①は、ドラマ監修者の1人である著者による、いわば「鎌倉殿の13人」視聴の手引き。両著者とも中世史の専門家なので史料を駆使し、従来の諸説を吟味しながらも、そこここに新説を提示しています。

前者①は新聞紙上の連載をもとに書き足した28人の人物史である人物考証編と、基礎的知識を解説した歴史教養編との2部構成になっており、私はまず第2部を読んでから、時間順に書かれている後者②と照らし合わせるように第1部を読んでいきました。一言で言えば、①は「物語」という冠詞が相応しく、②は政治力学を推測しながら当時の事件を再構成していく眼力に富んでいます。両書に共通する視角も少なくありません。

後鳥羽院には幕府を潰す意図はなく、北条氏を牽制する所存で承久の乱に踏み切ったのに、予想に反して事が大きくなってしまったのだという説を、①②とも採っています。①は、頼家も実朝も政治家として無能ではなかったという立場で、また13人衆と呼ばれるグループは頼家を抑圧する目的で作られたのではなく、制度というほどの組織でもなかったという。史料の隙間を埋める大胆な仮説を幾つも立てていますが、今後、研究者の検証を経ることになるでしょう。②は北条氏の中も1枚岩ではなかった、としています。

②は政治世界の力関係を鋭く読み込みながら、①とは異なる方法で当時の脈絡を再現していくところが痛快です。ただ、てにをはの誤りや独善的表現が多いのは残念。中には意味が逆になっている箇所もある。著者とは異なる眼で原稿を読み、進言する役割の編集者が、助力して欲しかったと思います。