日本中世の政治と制度

元木泰雄編『日本中世の政治と制度』(吉川弘文館)という論集が出ました。元木さんの定年を記念して、その教え子と研究会への参加者20人の執筆者(と元木さん)の気鋭の論文を集めたもの。各論文とも「はじめに」で問題の所在を示し、「おわりに」で結論を述べるという、明晰な形態になっており、紙面も読みやすい。

元木泰雄「頼朝挙兵の成功」、米澤隼人「平家のトノヰ所と押小路東洞院殿」、下石敬太郎「伊予国の治承・寿永内乱」、佐古愛己「院政・鎌倉期における朝覲行幸の特質と意義」、辻浩和「内教坊小考」、佐伯智宏「中世前期の王家と女性」、長村祥知「保元・平治の乱と中央馬政機関」、滑川敦子「鎌倉幕府侍所の成立過程について」、岩田愼平「武家政権について」、山本みなみ「慈円書状をめぐる諸問題」等々、私にとって有意義な論文ばかりでしたが、就中、坂口太郎「『愚管抄』成立の歴史的前提」を読んで目が覚めるような思いをしました。

慈円の『愚管抄』は、彼の歴史観を思想史の上に位置づけるためにも重要ですが、何と言っても、保元平治から承久の乱前夜までの、他の史料に見えない、政治・社会の動きを知ることができる、第一級の史料です。本論文は慈円の著作『本尊釈問答』『道理』(佚書)を材料に、『愚管抄』の成立や藤原将軍擁立前後の彼の活動などを浮き彫りにした力作。殊に『本尊釈問答』転写本の翻刻が見落とした、原本の書き入れ部分を推定した鮮やかな手際は、胸がすくようです。

これから『愚管抄』の研究は、各方面へめざましく進展していくかもしれない。それは九条家の周辺に『平家物語』の成立が想定されることからも、また『愚管抄』そのものの面白さから言っても、喜ばしいことです。待ち遠しい気がします。