軍記・語り物研究会430例会

軍記・語り物研究会の第430回例会に、オンラインで参加しました。参加者は30人前後で、平均的な規模だったと思います。発表は①井上泰さんの「兵庫県立歴史博物館本「源平合戦図屏風(一の谷合戦図)」の<絵語り>について」、②大山恵利奈さんの「「三河記」作品群の諸本分類について」の2本。

①は兵庫県立博物館蔵の源平合戦図屏風の中、一ノ谷合戦を描いた屏風を取り上げ、平家物語本文との関係や絵柄の注目点を考察し、屏風絵の語る物語を読もうとしたもの。素直な出発点だとは思いますが、部分に囚われて大きな見通しを獲得できていない観があります。井上泰至さんや出口久徳さんから、屏風絵には舞台がどこかを示すランドマークが描かれることが多く、坂落と敦盛最期がそれだろう、また屋形や生田の森での戦闘場面には戦国時代の影響が見受けられるという指摘があり、絵語りという仮説は熟していないとの意見が述べられて、私も同感でした。平家物語本文とその絵画化との間には、引用関係とは違う距離感があるし、絵巻物と屏風では画面上の視線誘導にも相違があるでしょう。

②は、95本にも及ぶ「三河記」と呼ばれる写本を片端から調査して、その中74本の内容を把握、分類した驚異的な労作。三河物語を研究したかったが、まずは似た書名の膨大な写本群の整理をしなければ着手できないと考えたのだそうで、コロナ禍で文献調査の困難な時期によくもこれだけの作業を完遂して、きちんと仕分けしたものだと感心しました。近世軍記の専門家とのやりとりも充実し、こういう発表が行われるなら、この研究会の存在意義はあるかな、と思いました。

それにしても、各々30枚を超える発表資料を自宅で打ち出すのはつらい。また持ち時間を決められた発表は、予め自分で時間を測っておくのが常識。