将棋の日本史

永井晋さんの『将棋の日本史 日本将棋はどのように生まれたのか』(山川出版社)という本を読みました。永井さんは金沢文庫学芸員を永く勤め、院政期から鎌倉初期日本史が専門です。初めタイトルを見た時、藤井聡太の人気にあやかったブーム本かと思いましたが、歴史書です。あとがきによれば、永井さんはアマチュア四段なのだそうで、建春門院中納言の日記『たまきはる』に八条院の御所で将棋が指されていた記事があることや北条時房邸跡から将棋駒が出土したことから、本書の執筆を思い立ったとのこと。

我が家は囲碁文化で、栢木の碁盤があり、昭和20年代には日曜の午後、母方の叔父と父が縁側で打っていました。私は将棋のルールは全く知りませんが、読み始めたら本書は面白かった。日本の将棋の発祥地がインドか中国かという論争があるそうですが、永井さんは日本に入ってきた印度文化は結局、大陸を通って中国の文化として入り、日本で作り替えられて現代に残っているのだという観点に立ち、史料や遺物を1つずつ考証することで、9世紀から16世紀日本における将棋の文化史を著述しています。

中国から渡来した将棋に関する書物の最初の記録は『日本国見在書目録』兵書の部であること、当初は軍事の参考、帝王学として学ばれたこと、日本将棋と中国将棋の違いには戦闘法や軍事組織の相違が反映されていること、寺院で見つかる駒の遺物は大工が端材で試作したものらしいこと、宮廷では臣下に指させて貴人は見物するのみだったこと、武家や僧侶の間で賭将棋が流行し屡々禁じられていること、日本将棋にも幾つか種類があること・・・飽きずに読みました。史料は意訳で載せているので分かりやすいけれども一部、読みが大丈夫かなと思う箇所(p112「差セトモ」は逆接では?)もないではありませんが、片手で持って楽しみながら読める本です。将棋の分かる方にお奨め。