鎌倉殿と執権北条氏

坂井孝一さんの『鎌倉殿と執権北条氏―義時はいかに朝廷を乗り越えたか』(NHK出版新書)を読みました。このところ坂井さんは実朝や鎌倉政権、承久の乱について立て続けに新書(中公新書PHP新書)を書いていて、本書も含め三部作だそうです。しかも従来の人物観、幕府体制に関する通説につぎつぎ大胆な反論を出し、その勢いはますます旺盛です。実朝は決して文弱な将軍ではなかった、政子は実家のために子を犠牲にした鬼母ではない、などがそうですが、本書でも大きな提言があります。

本書の章立ては、1伊豆の国における北条氏 2流人時代の頼朝 3頼朝の幕府樹立と北条氏 4頼家・実朝政権下の北条氏 5承久の乱と北条氏 となっており、頼朝の流人時代から説き起こし、伊豆の武士団の力関係や北条氏の視点からみた源氏将軍、承久の乱前後を語るところに特色があります。『吾妻鏡』や『愚管抄』、幕府の発給文書などを駆使しながら、その虚構性にも注意を払い、事実とそれが記録上にはどう残されたかとを相対的に語ろうとしています。

中でも大胆な提言は、流人時代に頼朝が最初の子をなした伊東家の女について、後に頼朝が北条義時と娶せたのではないか、つまり泰時の母阿波局がその人では、という推測です。頼朝の人脈作り、体制固めの方法は縁戚関係による部分が大きかったことを改めて認識しましたが、この提言はあまりにドラマ向きな気もします。今後の議論が待たれるところ。また鎌倉13人衆と呼ばれた人々の合議制度は確認できず、頼家への訴訟の取り次ぎが出来る宿老を13人に限定したに過ぎない、との提言も重要です。

坂井さんは来年の大河ドラマ監修者。制作者とのどんなせめぎ合いの結果が放映されることになるか、楽しみです。