北条時政

野口実さんの『北条時政―頼朝の妻の父、近日の珍物か―』(2022 ミネルヴァ書房)①を買ってきて読みました。大河ドラマでは田舎親父が悪女の後妻に惚れて、と言った筋立てになっています(歌舞伎役者の好演で存在感を保持)が、もっと京都の雰囲気(圧力)が周辺にあったはず、と思ったのです。同時に買った細川重男『頼朝の武士団』(2021 朝日新書)②、ツンドク山から引っ張り出した奥富敬之『鎌倉 北条一族』(1983  新人物往来社)③も並行して読みました。

①はきちんと史料を踏まえながら分かりやすく整理されて書かれ、お奨めの書です。時政、さらに北条一族が何故坂東武士の中で一頭地を抜くことができたか、がよく分かります。草深い坂東と雖も、すでにこの時代、京都や奈良の政治・寺院勢力、また水軍を通じて西国との関係を保ち得た集団と、群小の一族とが共存しており、そこへ以仁王令旨という渦の種子が投げ込まれたのだということが納得できます。軍記物語は事件や人物を思い切り整理して構成されていますが、じつはこういう絡み合いになっていたのだということ、何故あんな記事があったのかということも判ってきます。

奥富さんとは随分昔、市民講座の講師控室で御一緒し、話が弾みました。自分の講座がない日に奥富さんが間違えてやって来て、話し込んで帰ったこともありましたっけ。最近は事実誤認もあると批判されているようですが、『鎌倉北条氏の基礎的研究』(吉川弘文館 1955)は修士論文だったのですね。③は①より後の時代までを記述していて有益。

②は大河ドラマの参考に読んでもいいかも。例えば平治の乱で義朝の許に参集した息子たち―「父上、右兵衛権佐、参上仕りました」と挨拶する頼朝の側へ、悪源太義平はいわくありげな輩を引き連れて「おやじイ、来たぜ!」とずかずか入って来る、とか。