軍記・語り物研究会シンポジウム「軍記研究が国語科教育へ届けるべきことは何か」(オンライン)を視聴しました。講師は4人、①栃木県立那須拓陽高校 大谷貞德「生徒の実態を踏まえた指導実践」②暁星中学・高校 吉永昌弘「中学生と「敦盛最期」を読む」③愛媛大学 小助川元太「古典を<読む>授業へ」④早稲田大学 大津雄一「『平家物語』で「道徳」を教える!?」、①②は実践報告、③④は教育学部の教員としての立場から。軍記といっても中高の古典教育で取り上げられるのは平家物語だけと言ってもいいので、取り上げた教材は①が「能登殿最期」、③は「木曽最期」でした。質疑応答は司会者がまとめてしまいましたが、現職教諭からも含め20問ほどが寄せられました。
こういう企画ではけっきょく、実践報告が有益です。同じ教材で複数の実践報告を並べて聞いてみたい気がします。①は農業高校で、文学の博士課程出身者が工夫する授業、②は中高一貫教育のミッション校、③は現場教員の相談にも乗り、教科書編集にも携わる立場、という相違がよく出ていました。①は物具を脱ぐ、という記述に注目したところに教師の工夫があり、②は中学段階と高校段階とを連続・展開として計画できるところに特色があります。③は新指導要領以降は古典の授業を「訳す」から「読む」へ変え、その過程で論理的思考も養えるという実践のあり方を示していました。
しかし趣意文にも総括でも、研究から教育現場へ何を届けるか、あるいは現場が研究に求めるもの、という姿勢が打ち出されたことには違和感を禁じ得ません。文学研究と文学教育は、それぞれ並行して在るものではないでしょうか。互いにその成果を享受しつつ進む。マニュアル本のような発信を研究者に期待するのはいかがなものか。それではいつも、気に入らないと思いますよ。
軍記・語り物研究会のサイトから、本シンポジウムの実況動画を視聴することができます。次回は、理系の学生に教える文学教育、という企画は如何。