コロナな日々 14th stage

近所のスーパーが混み合い、ありふれた食材しか置かなくなったので、野菜とパンを買い出しに、播磨坂まで出かけました。桜並木は木下闇になり、花卯木が咲いています。播磨坂は、私が地方勤務だった間に高級マンションが建ち並び、街が一変しました。

スーパへ入ると、草臥れてはいるが背広とソフト帽を着こなした老人が、鮪のサクと刺身を手に取って、かれこれ20分もためつすがめつ見比べています。果物売り場の苺に、「とちおちめ」という札がついていたので、思わず「郷土愛」が疼き、店員に注意しました。縁起でもない。野菜の種類は減っていましたが、それでもラディシュ、ルッコラ、チコリ、紫キャベツ、空心菜などを買い込み、ふと山椒の実に目が留まり、衝動買いしました。ここは店員が買い物袋に詰めるのですが、いきなり「刺身もこれに入れていいの~う?」と言われ、一瞬、それが客の私に向けられていると知って、「いいですか!」と言い直しました、知らない相手なんだから。店員もつられて咄嗟に言い直す。矯正の間合いは、未だ現役でも通用するな、と苦笑しながら店を出ました。

あの老人は未だ魚売り場に佇んでいます。後ろ髪を引かれました。量や値段と、新鮮な鮪を食べたい気持ちとが葛藤しているのでしょう。小石川は暮らしやすい街、とのイメージがあったのですが、案外、高齢者には暮らしにくくなったのかもしれません。

外出時の緊張のせいか、帰宅したら疲れが出て、窓辺でぼんやりしました。入ってくる風には、若葉や椎の花や、様々な花の匂いが乗っています。山椒の実をどうしよう、と考えながら、コロナで進まない調べ物や実見できない資料にいらいらするより、今までやってみなかったことをやるのも、人生の一時期、許されるかもしれないな、と思いました。PCを開け、レシピを調べて、山椒の実を茹で、醤油漬に仕込みました。