韓国漢文愛情伝奇小説

日向一雅編『 韓国漢文愛情伝奇小説』(白帝社 2020)という本が出ました。明治大学大学院の輪読会が中心となって、韓国の漢文小説5編を選んで翻訳、注釈をつけています。『周生伝』『憑虚子訪花録』『崔陟伝』『相思洞記』『王郎返魂伝』を取り上げ、短い解説と現代語訳を掲げ、原文・校異・書き下し文・語釈を付したもの。日向さんの序文によれば、このような形式での出版は本邦初だそうです。

数年前、何かの必要があって、朝鮮半島の古典文学史を知ろうとしたら、殆ど手がかりを持ち合わせていないことに気づき、愕然としました。とりあえずウェブを閲覧しても、簡単な記述しかない。本書にも野崎充彦さんの「韓国漢文小説へのアプローチ」という概説が載っていますが、こちらに基本的な知識がないので、作品名が出てきてもちんぷんかんぷんです。反省しました。

朝鮮文学史は12世紀くらいまでしか遡れないらしい。15世紀半ばにハングルができ、しかしその後も漢文が正規の文章とされる風潮が強く、中国の影響が大きくて朝鮮文化そのものの影は薄く、また儒教の縛りが強かったためもあって、作者名や成立事情が明確でない作品が多いのだそうです。以前、パンソリについては少々興味(語りの文芸として)を持って資料を集めたりしましたが、それきりになっていました。弊国で言えば近世前期の文学との共通性があり、エンターテイメントとしての性格が濃厚です。

大学院時代、中古文学のゼミには鈴木日出男さんや田中喜美春さんのような紳士的な年長者と、一方でアクの強い上級生たちとがいて、その中で日向さんは寡黙な、温順しい先輩でした。「あとがき」を見て、長年の職場で、骨の折れる、先例の少ない仕事のまとめ役を、こつこつとやって来られたんだなあと、後輩として光栄に感じました。