川越便り・笹百合篇

川越の友人が鉢の笹百合が咲いた、と写真を送ってきました。通常の百合は花が咲くまでに3年かかりますが、笹百合は7年もかかるのだそうです。奈良の狭井神社の大祭には、山から採ってきたこの花を酒樽の周囲に飾りつけて神前に奉納するので有名です。

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笹百合

36年前鳥取へ赴任した時、宿舎の用意がなく、駅前の大手信託銀行へ飛び込んで町の不動産屋を紹介して貰い、アパートを借りました。当時は、女性の一人暮らしは好奇の目で見られる時代。大家は70代の老人でしたが、私が単身だと知ると、にやりと笑って「わしも未だ恋はできますよ」と言ったので呆れ、聞こえないふりをしました。かつて経営していた繊維工場が倒産し、全資産をかの不動産屋に買い叩かれ、最後に残ったアパートだそうで、毎日本宅から通ってきて、昼間は1階の1室で素人の油絵を描いていました。

さて1年目の6月、休日明けに私が東京から戻ってきたら、戸口に笹百合の花が置いてあったのです。裏山に沢山咲いているのだそうで、「折角摘んできてやったのに、あんたはおらん、これは2本目だ」と恨みがましく言われ、返事に窮しました。それ以来、東京へ帰る度に、ちょっとした絵の道具(絵筆とか消し炭とか)を手土産に買ってくることにしました。父も絵を描くので、と必ず言い添えて。5年目、私が離任する直前に認知症が出て、亡くなりました。

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カラマツソウ

川越の友人からは唐松草のほかにも、イブキトラノオやシライトソウの写真が来ましたが、大きすぎたり小さすぎたり、なので、来年の写真が来た時にします。

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丁字草と紫蘭

丁字草は夾竹桃の仲間だそうで、私は初めて見ました。友人は老後の住居を温泉地に確保していて、いずれ転居して悠々暮らすのだと触れ回っています。すると庭一杯に植え込まれた花々は、どうなるのでしょう。何となく痛ましい思いで写真を眺めました。