蕗の薹

美濃国の中西さんから、蕗の薹の写真を刷った葉書が来ました。未だ開かず、まるまると太って、いかにもうまそうです。天麩羅専門店などでは、葉が開いて花が見え始めたものを揚げて出します(その方が見場がよい)が、食べるには親指の頭くらいに膨らんだ頃がよい。我が家はもう揚げ物をしなくなりましたが、蕗の薹はやはり天麩羅が一番です。揚げすぎて余った時は、一晩甘酢に漬けてマリネにすると、楽しめます。

随分前のことですが、長野の友人が未だ東京在勤時代、帰郷土産と言って、菓子箱一杯の蕗の薹を持ってきてくれたことがありました。寒風の中で摘んだのでしょう。薺や田芹も、食用にするには未だロゼットの内にナイフで剥がして摘むのだそうです。「若菜摘む」という歌語からは、若い女性たちが手に手に籠を持って野に散らばり、賑やかな声を立てているような連想がありますが、現実は厳冬ゆえの春の喜びだったはず。

そろそろ栽培された山菜が店に出る頃だと、播磨坂のスーパーに行ってみました。蕗の薹は親指の先ほどの大きさで、行儀よくトレイにぎっちり並べてあります。タラの芽も買いました。惣菜類を物色しながら歩くと、桜漬、桜のパンナコッタ等々の文字に目が止まります。前者は大根の漬物で、後者はピンクのジュレが載せてある。そう言えばバスを降りた時、播磨坂の並木の梢も、心なし潤んできたように見えました。

カートには芹や菜の花や蕪も入れました。野菜の種類が多いと料理の楽しみが増えます。問題は休肝日が遠のくこと。季節と器を楽しむ料理ですから。芹と豆腐をたっぷりのだしで煮るだけでも、日本酒に合う1品ができます。蕗の薹やタラの芽はそれぞれベーコンなどと合わせて炒め、小鉢に。そうそう、蕪と干し柿を合わせた酢の物もいい。コレステロールを用心して、天麩羅以外のメニューを開発しなくっちゃ。