川合康さんの「仁和寺所蔵『保元・平治合戦図屏風』をめぐる二、三の論点―神泉苑本との比較から―」(2020~23年度科研費報告書『戦国軍記・合戦図の史料学的研究』課題番号20H00031)を読みました。この科研の報告会は京都で行われていて、聴きに行きたいなあと思いながら果たせずにいました。
保元平治の合戦を描いた屏風は、大きく2種類に分かれ、➀合戦の全体もしくは主要な複数の場面を描いたもの ②ある場面を抜き出して描いたもの があり、前者ではメトロポリタン美術館蔵、神泉苑博物館蔵、仁和寺蔵、後者は馬の博物館蔵蔵、岡山県立美術館蔵、東博蔵、成巽閣蔵などが主なものだそうです。仁和寺蔵の屏風は神泉苑博物館蔵の屏風の模写だとされ、本論文ではまず仁和寺蔵本の熟覧から得られた知見をもとに両者の関係、神泉苑本の成立と享受について述べています。
仁和寺蔵本の場面の読み解きについて、写真ではよく分からない部分もあるが、p20図4は、為義北方に関する場面ではないでしょうか。保元物語で女性が登場する有名な場面はそれしかないし、画像では屋形ではなく輿が描かれているように見える。絵画と本文が細部で一致しないことはよくあるものの、この例は家成邸炎上に続けて読むのではなく、併行する別の時系列の挿話ではないかと思います。図7も信西の末路が信西捜索の一部として描かれていますが、信西邸に地続きの空間と読む必要はないのではないか。絵画資料、殊に屏風の場合、空間構成はある意味で自由自在です。
神泉苑本と『遠碧軒記』との関係については、ちょっと驚きました。この書は長門本平家物語の書写についても録しているからです。写本であれ屏風であれ、興味の方向は繋がっている。戦わぬ武士の時代、軍記物語への教養人の関心について考えなくては。