海の見える杜美術館

広島の宮島口近くにある、海の見える杜美術館では「平家物語絵―修羅と鎮魂の絵画」と題する特別展を開催しているそうです(5月15日まで)。http://www.umam.jp

この美術館は、豪華な絵画資料や香水瓶のコレクションなどを所蔵しているので有名です。今年はアニメ放映や大河ドラマの影響で、各地の博物館・美術館で平家物語に関する企画が多く行われる年になりましたが、中でもこの展示は見応えのある資料を、工夫を凝らして見せているらしく、実際に行ってきた人の話では、まず入り口に赤間神宮蔵「安徳天皇縁起絵伝」8幅の大きなパネル写真が立ててあり、現在では隅々まで接近して見ることの難しい画面を熟覧することができて、忽ち平家物語絵による別世界に引き込まれていく、とのことです。

山鳩色の見返しで装丁された図録を見ました。出陳されている館蔵資料は、平家物語絵巻貼付・宇治川一ノ谷合戦図・大原御幸図・厳島図・奈良絵本貼交などの屏風、保元平治物語や能狂言の絵巻、平家物語絵、平家物語扇面画帖、『本朝大将百人伝』、保元平治物語源平盛衰記・舞の本などの奈良絵本で、それぞれ時代や画風も、媒体も異なる平家物語の絵画資料を一覧することができ、その分野の基本資料とされる館外の作品も出されています。色彩の豊かさ、筆遣いの面白さ、画面構成など、題材をよく知っているだけに見比べて楽しめるし、白描絵の魅力なども新鮮です。

図録の作品解説や資料編の翻刻も有益です。但し、p93上段注8、高木信さんの論文収載の書籍名は誤りです。2020年に花鳥社から出た本の名は『無常の鐘声』が正しく、この本に高木さんは執筆していません。また室町幕府平家物語の関係について、一部の説は史料の扱いに問題があり、あまり誇大に考えない方がいいでしょう。