描かれた武

中根千絵・薄田大輔編『合戦図ー描かれた<武(もののふ)>』(2021/12 勉誠出版)という本が出ました。2019年夏に徳川美術館蓬左文庫の「合戦図ーもののふたちの勇姿を描く」展で行われたシンポジウムを発展させ、中世に現れた合戦図が近世的な価値体系の中で再編されていく過程を解明する目的で編まれたとのこと。図録編には絵巻・屏風併せて38点の図版(惜しむらくは図版ごとに色の具合が異なっている)が、論考編には総説、中世、戦国、計12本の論文が載っています。

中根さんの序言、薄田さんの総説によって、合戦図研究の現在が展望でき、10年程前の共同研究で、文学と絵画資料の研究方法について迷い続けたけれど、今なら方向性が掴めそうだと実感しました。殊に井上泰至さんの「戦国合戦図屏風と軍記・合戦図」、出口久徳さんの「源平合戦絵の展開」からは今後の進路への指針も得られ、従来のように本文だけ、または絵画史に拘らない、新たな研究分野が想像できそうです。龍澤彩さんと小助川元太さんが各々書いている河野美術館蔵「源平合戦図屏風」の論も読み応えがあります。

しかし絵画資料の読みは、容易ではありません。鈴木彰さんが取り上げた立教大学蔵の扇面画帖について、図版によって確認すると、NO1は源平盛衰記に拠ったもの(控える武者が2人だから)。NO8も源平盛衰記巻11に拠るもので、離れて見ているのは清盛でなく重盛です。NO6を業盛と判定していますが、流布本平家にはこういう場面はなく、盛衰記など読み本系か八坂系の本文に拠るのでしょう。NO10は陸上の陣内と見えます(遠山記念館の「源平武者絵」の説明が必ずしも正しくないことは、『文化現象としての源平盛衰記』に指摘してあります)。NO13の常磐都落図に雪がないのは、金刀比羅本でなく流布本平治物語に拠ったからでしょう。再度確認して下さい。