和の魔力

家事代行で毎週やって来るエノキさんが、和裁をやっている友達を訪ねた、とやや興奮気味で話し始めました。彼女は仕事仲間だけでなくSNSを通した友達も多く、それぞれの違う世界を覗き見するのが新鮮で愉しいらしい。浅草で育って、今は和裁で生活を立てている女性の家で、いろいろ話を聞き、試着もさせて貰ったようです。

日頃私は、花火中継のアナウンサーなどの浴衣の趣味がわるい、まるで布団皮だ、などと言っているのですが、エノキさんは薄青の秋草模様(蔦、桔梗に萱)の浴衣に藍色の帯(薄と兎の絵柄)を締めた写真を見せてくれました。木綿の肌触りがよくて、脇が開いているから涼しい、とすっかり気に入ったらしい。浴衣は反物で買うのだそうで、1人前¥5万、仕立てれば¥8万から10万とのこと!エノキさんの年頃なら最初は薄青、着慣れたら藍、それから色物・・・と教えられ、有名タレントたちが似合いもしない高級和服に染まっていく気持ちが分かった、と言っていました。そこでは場所柄、芸者の着物も仕立てるそうで、エノキさんは、芸者さんとは女を売る商売かと思っていたが、とても男っぽいと聞かされたそう。うっかり「蹴回しをつけますか」なんて訊くと、「そんなださいこと、訊かないでくれる?!」と叱られるという話でした。

いま和裁を習うのが流行っていて、何故か医師がよく習いに来るという。無心に針を動かしていると集中力が持続するのだそうです。手先の訓練にもなるのかもしれません。エノキさんもかなり気持ちが動いているようでした。和の文化は究極のSDGsでもあり、仕立てた着物は何度も縫い直し、やがておしめや雑巾になるまで使いこなされます。

すっかり和の魔力に取り憑かれたらしいエノキさん。1年経ったら、手縫いの浴衣で花火見物に出かけた話をするかも知れません。