高級腕時計

エノキさんに、最近は、どうしてそんなことをやってのけるのかが分からんことが多い、と言ったら、こうしたらこうなる、ということを考えずにやっちゃうのが多いですよね、と合槌を打たれました。最近で最も分からないのは銀座の時計強盗です。あんなに人目の多い場所で、人通りも多い時間で、今どきは通行人のスマホも街角の防犯カメラもそこら中にあるのに、お面を被っただけで逃げ切れると思ったんだろうか、10代にしても幼稚すぎる、と2人で首をかしげました。

後日、エノキさんが仕入れてきた情報では、彼らは借金に追い詰められていたのだそうで、ゲームなど、今は若者の身近にギャンブルがあるのだそうです。しかもブランド腕時計の高価格がこれ見よがしにウェブ上でひけらかされる、ユーチューバーの中には千万円台の腕時計を買いに行く一部始終を、わざわざ中継する者もいる、とのこと。呆れるというより愕くしかない。そんな高価格の腕時計をはめてどうするんだろう(自身よりアクセサリの方が高値なのでは?)、と思わず愚問。俗物だねえ、と陳腐な感想。しかし幼稚なだけでなく、この時代の、ある一面を突きつけられた感じがしました。

在職時代、私はずっと、男物の腕時計をしていました。丸い文字盤の、アナログな国産品です。大人数の教室では教師が時計を見ると忽ち空気が緩むので、気づかれないように、あと何分あるかを一瞬で把握する必要があったからです。亡父は海外出張に出る前には必ず、私の腕時計を借りて行きました。よいから買います国産品、が我が家のモットーでしたが、セイコードルチェは税関で申告しなければならないのが面倒だ、というのです。ある時、私の貸した時計が出張先で壊れ、修理店で、日本人でこんな安物をはめている人はいない、と言われたぞ、と言ったのでむっとしました。今でもきちんと動いています。