太平記新考

小秋元段さんの『太平記新考』(汲古書院)を読みました。2006年から21年までに発表した(例外に1999年発表の研究史の一部がある)、論考13本と研究史をまとめた全438頁。1古態の探求 2神田本の検証 3作品とその周辺 4伝本の考察 5研究の来歴 の5部構成ですが、その大半は私は初出時に読み、本ブログにも紹介してきたので、今回は4部を中心に紹介したいと思います。

4部の1・2章は国文学研究資料館が蒐集してきたマイクロフィルムについてで、それに松浦史料博物館所蔵の太平記についてと、東北大学漱石文庫蔵古活字版『太平記鈔・音義』の表紙の作成過程について考察した3,4章から成っています。4-1、4-2については、その魁となった平家物語マイクロフィルム解題を、村上学さんを代表とする共同研究の締めくくりとして発起したのは私でもあり、その後保元平治物語に拡大した際に資料館側から苦い思いをさせられた思い出もあるので、こういう形で完成させた小秋元さんには、感謝したい気になります。終わりよければ全てよし。

4-3に関しては、平家物語の八坂本系諸本の共同研究の経験から、興味深く読みました。諸本の多いことで特徴的な軍記物語ですが、じつは、いわゆる混態本(異なる系列の諸本の本文が取り混ぜられている本)が圧倒的に多い(というより、研究者が○○本、××本と命名している「純粋本文」の概念を再検討した方がいいのかも知れません)。では、中世の作者たちは、そんなに多くの本文をどこで入手し、どうして取り混ぜる気になったのか。それこそが、今や諸本論最大の課題なのです。

4-4は、4-1・2と共に、太平記古活字版の研究水準を一気に押し上げた小秋元さんならではの、根気のよい推理と丁寧な整理の結果。こういう研究も国文学なんです。