去りゆく花

今年の桜は咲くまで散々焦らされて、咲き始めたらあっという間、満開直後から風雨に遭い・・・という具合で気が揉めました。枝垂桜も染井吉野も八重桜も殆ど同時に咲き始めてしまい(例年なら順次楽しめるのに)、見歩くのにも気が急きます。

まず長泉寺の八重桜を見に境内へ入ると、巨大なクレーンが麒麟のように首を伸ばし、青空と満開の八重桜の上空を徘徊する光景に出くわしました。菊坂ホテル跡地にあった会社が退去して、大規模なワンルームマンションの建設が始まったのです。よく見ると昨夜の嵐で折れたのか、大きな枝が蔓草に吊られていました。花は萎れかけていましたが、未だ間に合う、と辺りを見回し、墓参用の手桶に水を張って投げ入れておきました。庫裡にでも活けてくれるといいな、と。

赤門脇の八重桜は九分咲き。何やら工事中らしく片寄せてあったベンチに座って、新聞を読みました。頁を繰るのに目を上げると、宙一杯の華。贅沢な時間でした。来年も見られるかしら。自分が元気かどうかもあるが、まさかこの工事で伐採されませんように。

古木になって花が少なくなったけど、と思いながら法真寺に入ってみました。狭い境内一杯に植え足した若木の八重桜が育って満開になり、柳や染井吉野御衣黄などと混じって賑やかになっています。その話をしながら扇屋で、道明寺と桜饅頭を買いました。帰宅して紙箱を空けたら、ふわあっと桜の香りが立ち、陶然となりました。

番茶を淹れてメールを開けると、元木泰雄さんの訃報が何通も飛び込んできました。ここ暫く体調が悪いと言いながら、いつも丁寧なお便りを下さいました。お書きになった物も次々頂いて、我が家には元木コーナーが出来ていたほど。殊に平治の乱についての見解には、蒙を啓かれました。戦闘的だが温厚な方でした。 合掌。