古典籍の文献学

「書物学」25号『古典籍の文献学ー鶴見大学図書館の蒐書を巡る』(2024/3 勉誠社)という1冊が出ました。鶴見大学総持学園)創立百周年記念事業の一環だそうです。鶴見大学図書館の蔵書の豪華さは有名ですが、目の利く専門家がいるからこそ出来るコレクションー古筆断簡や経典など、貴重でもあり、鑑定が難しくもある資料が多いことが特徴です。本誌の目次を見てもそれが分かります。

本誌は1物語と歌書 2仏書・漢籍・洋学・アーカイブの2部構成で、私は平藤幸さんの「『平家物語長門切」と石澤一志さんの「十三代集とその周辺」を興深く読みました。長門切を最初に蒐集し始めたのは鶴見大学で、私も40年近く前、岩佐美代子さんから勧められて拝見に行き、読み本系平家物語諸本の流動の広大さを改めて認識したものでした。本誌には鶴見大学所蔵17葉のカラー写真が載っていて、伝来の間の環境によるのか、料紙の色が各々違って見え、初めて見たら同一の巻子本が切断されたとは思えないだろうということがよく分かります。

全冊を通して古典籍のカラー写真がふんだんに掲載され、それを見るだけでも幸福な満腹感を味わえますが、様々な分野の解説を簡潔に書ける人材が揃っていることにも感服しました。国文学だけでなく「本邦における仏典の書写・請来・印刷」や「禅籍からはじまる日本出版文化」、『観普賢経私記』の書誌など、近年の学界を覆う仏教資料重視の因由を納得できる入門書としても有益でしょう。

最後に載っている大矢一志さんの「でんしかしよう!」は、タイムリーな1本。素人も怖がらず資料の電子化に参入できることは、これからの若手研究者には必須。本誌は定価¥2000+税、お買得だと思います。