川越便り・茶花の庭篇

先週、川越の友人から、庭が賑やかになってきた、と写メールが来ました。

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ヒトリシズカ(だと私は思う)

フタリシズカだとメールにはありましたが、これはヒトリシズカでしょう。

子供の頃寝たきりだった私がこの花を知ったのは、岩波写真文庫によってでした。昭和20年代半ばに出された、白黒写真のブックレットの中に野草の花を集めた1冊があり、ヒトリシズカが載っていました。当時はちょっと郊外へ出れば普通に見られた草だったと思います。あのシリーズは、白黒写真そのものが鑑賞の対象になるのだと多くの人に知らしめ、また焦土となった日本に残ったものの美を、再発見させてくれたのです。

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バイモ

これはしぶい。貝母は1輪挿しに入れて茶室や書斎の柱に掛けるのに相応しい花です。

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タンチョウソウ

丹頂草は見たことがありませんが、葉が開くとヤツデに似ているのだそうです。

そろそろ今年の桜前線は東京を過ぎて、陸奥へ移りつつあるようです。赤門脇の八重桜を塀の隙間から眺めました。今年は殊に見事に咲いているようですが、用務がない者は門内へ入れません。悲しい気分で扇屋へ寄り、花見団子と桜饅頭を買いました。その代わり、学士会館跡地の枝垂桜が、今年は珍しく4本揃って咲きました。植えられて随分経ちますが、1本枯れたり、遅速が合わなかったりで、なかなか揃わなかったのです。

長泉寺の八重桜は今が盛り。樹の周囲を廻って落ちた花を拾っていたら、不審に思ったのか、老猫を抱いた若奥さんが出て来て声を掛けられました。老木の山桜の傍に、取り木をした苗を植えたそうです。猫は17歳、怪我が多くなったとのことで、そっぽを向いていた猫は自分の話だと分かるのか、何だおめえは、という目で私を睨みました。

帰宅後、笠間の黒い平鉢に水を入れ、拾ってきた花を浮かべて仏壇に上げました。夜になって仏壇から降ろしたら、萎れていた花が生き返り、ふくふくと鉢の中で盛り上がっています。今年最後の花見酒を、と赤絵の盃を出して洗いました。