古活字探偵5

高木浩明さんの連載「古活字探偵事件帖5」(「日本古書通信」5月号)を読みました。欠損活字に注目することの重要性を、今回は「同種活字とは何者か?」と題して説いています。

古活字版研究の大御所川瀬一馬氏は、よく「同種活字」という語を使っていて、それは同じ活字なのか、よく似た活字なのかが曖昧でした。同一と断定するにはやや躊躇があることを正直に言っているのかも知れませんが、できるだけそういう曖昧さは減らしていきたい。高木さんは、那波道円(1595-1648)が元和3,4(1617-18)年頃に刊行した『類聚名義抄』と『白氏文集』とを、例に採り上げました。

川瀬氏は、両書には「同種の大型活字」が用いられていると述べていますが、高木さんは欠損活字を丹念に比較して、同一の活字を使用して組んだものと判断しました。1字や2字では、その活字だけが流用された可能性もありますが、幾つもの欠損活字が共通していることが証明できれば、同じ活字セットが使われたとみてよいでしょう。

軍記物語の諸本を比較する際に、ある時期から「近似本文」という語が使われるようになりました。諸本同士では全く同じ本文、全く異なる本文を持つ場合は稀で、同義の語句に換わっていたり、語順が入れ替わったり、といった異同が結果的に文芸的性格の相違をもたらすような例が多い。その懸隔があまり遠くない場合に「近似」という語はたいへん便利なのですが、しかし頻用するのは考えものです。どこが似ているのか、どれだけ似ているのか、その基準は何を以て判断しているのかを明示していないからです。

「同種」という語もそれに共通したところがあるな、と思いました。さらに突き詰める余地があると言っている、良心的な語のようだが、追跡して初めて落ち着く語です。