古活字探偵11

高木浩明さんの「古活字探偵事件帖11 誤脱の理由」(「日本古書通信」11月号)を読みました。本文の脱落の理由が推測できる例について書いています。

写本でもよくあるのは目移りー近い箇所に同じ文字や同じ語句がある時に起こりやすいミスですが、古活字版でも起こります。版本の場合は、1行の字数はほぼ一定し、1面行数も決まっているので、脱落した字数を数えると誤脱の理由が分かることがあります。めくる際に1丁分飛ばしてしまったり、目移りによって何行か飛ばしてしまったり・・・逆に複数回同じ字数の脱落を起こしていれば、そこから使用した底本の字詰めを推測できることもあります。摺った後、また再版時には校正も行われたらしく、補訂された形跡も見られると高木さんは言います。なるべく影響が少なくて済むよう、補訂した丁の字詰めを変えたり、漢字仮名の当て方を替えたりして調整しているのだそうです。

写本を作る時にも本文校訂をしながら写すことは行われたようですが、版本を作る、殊に古活字版を作る際には、本文校訂が必須でした。それにはいろいろな理由があり、必ずしも正しい本文を作るという目的だけでなく、丁数を減らすコスト面からの要求もあったし、想定した読者層との関係もあったでしょう。しかし定家や真淵による校訂ではなく、今となっては名も分からない、印刷関係者による「校訂」を経た本文を、私たちは読んでいる場合もあることは、心に留めておいた方がいいでしょう。

流動する平家物語の最終段階は近世初期にありますが、その本文変化が平家語りによるものか、印刷出版の過程で生じたものか、あるいは両者に何らかの関連があったのか(流布本の中には、一方検校衆の吟味によるという刊記を持つ版もある)、充分な追究が行われてきたとは言えない現状です。