東国対決の木曽義仲

長村祥知さんの『源頼朝木曽義仲』(吉川弘文館 2023/8)を取り寄せて読みました。年表・参考文献一覧とも180頁のソフトカバー、持ちやすく文字も大きくて読みやすそうに見える本ですが、長元元(1028)年の平忠常の乱から説き起こし、駆け足で保元平治の乱から頼朝の征夷大将軍就任までを書いていくので、殊に前半は人名ぎっしり、という感じになり、分量配分を誤ったのではないかな、と思いましたが、本書は「対決の東国史」というシリーズの第1巻で、コンセプトの制約があったようです。

一昨年の大河ドラマの監修も務め、承久の乱に関する著書もある長村さんに、私は木曽義仲の新しい伝記を期待して取り寄せました。本書は、1義朝と義賢 2源義朝と保元・平治の乱 3流人源頼朝と東国の反乱 4木曽義仲の上洛 という章立てで、時系列に沿って記述され、殊に1・2章の辺りは、師の元木泰雄さんが蓄積された成果があります。

前半はすでに多くの通史が語るところでもあるので、私は4章の(3)義仲の上洛・入京、(4)寿永2年10月宣旨と法住寺合戦の部分を注目して読みました。全体的に気になるのは、延慶本平家物語をそのまま史料と同列に扱う場合が少なくないこと。近年の歴史学者の傾向でもありますが、これは大いに危険です。傍証としてか、異同例として参照するのがよい。少なくとも、文学研究者の側からは史学研究者にそう望みます。

京都は、いや王都は怖い。義仲も彼なりに政治を試みたことが本書から分かります。しかし頼朝は幼少時から京都の組織に乗っていたが、義仲はそうではなかった。頼朝は王都から距離を保って政治をすることができたが、義仲はー読みながら、平家物語(語り本系も含めて)が歴史を描く方法を、改めて認識させられました。事実通りに記録はしていない、しかし当たらずと雖も遠からず、いや物語独特の方法で、当時の真実を伝えている。