平氏が語る源平争乱

永井晋さんの『平氏が語る源平争乱』(吉川弘文館 2019)を読みました。広告で書名を見た時から、そういう視点の歴史を読みたかった、と思っていたので、期待して読みました。結果を一口で言うと、『平家物語』諸本の記事の隙間がよく分かった、という満足感と、やっぱり『平家物語』の記述に頼りすぎているなあ、と思う部分とが半々、というところでしょうか。

佐竹氏や奥州藤原氏と頼朝の関係、頼朝挙兵後の全国の地方武士たちの動向、義仲の思惑と失敗した政略、など語り本系『平家物語』が切り捨てた(読み本系諸本だと、それらの記事が断片的にちらちら顔を出すので、ストーリーとして理解できない)当時の情況が全体として掴めてきます。しかし屋島合戦や壇ノ浦合戦についての物語記事を、ほぼそのままたどっているのは、どうでしょうか。屋島合戦などは、果たして物語の言うような、華々しい武芸の舞台となるほどのものだったのか、疑われます。

しかし単に史実か創作かという視点ではなく、また清盛や後白河院の個人的性格に原因を求めるのでなく、当時の社会状況からことのなりゆきを説明していく姿勢には共鳴できます。養和の飢饉についても、東北と西国の気象災害の違いを視野に入れて軍勢の動きを推定する説明には、納得しました。

一般に読まれている語り本系『平家物語』は平家滅亡を主題にしているのに、読者はつい、追われる平家より逐う源氏の側から話の筋を追いがちになるのは、何故でしょうか。たしかに、平家一門への追悼と、あのよき時代への憧憬が溢れていながらも、そこには新時代へと向かっていく、もはや引き返せない推進力が、全編を貫く心棒のように語られているからだと思います。