摂関期院政期の研究史

有富純也・佐藤雄基編『摂関・院政期研究を読み直す』(思文閣出版)という本が出ました。もとは2016年から始まった読書会の成果だそうですが、いい論文を書いている若手(明翔会の手嶋大侑さんもその1人)を巻き込もうということになって、人数を増やし、Zoomを利用しながら22年秋まで研究会を続けたのだそう。総論の後、Ⅰ社会・国家の変化 Ⅱ東アジアと政治文化 Ⅲ貴族社会と新たな身分 という3部構成で、13本の論考が並んでいます。あとがきでは入門書だと言っていますが、新進気鋭の研究者たちが、単なる羅列ではなく自らを賭けた批評を含む研究史の構築を試みていて、その気迫が心地よい。最近の軍記物語研究者は必読、と言いたいところ。

編者は、古代史と中世史の対話を心がけて新たな研究をつくろうとした、と言っています。手嶋大侑さんは荘園成立史を担当、この時期の日本史研究の中核を成した分野に取り組んでいます。ほかに本所法、仏教と東アジア、天皇の二面性、院政期の権門と家、技能官人、武士成立史、中世的身分のはじまり など多様なテーマが取り上げられました。

私には木下竜馬「治承・寿永の内乱から生まれた鎌倉幕府」、小塩慶「「国風文化」はいかに論じられてきたか」、岡島陽子「摂関・院政期の女房と女官」が面白く、有益でした。全体に史学だけでなく国文学の研究成果も視野に入れているので、日頃、同業者ながら研究内容や動機がよく分かっていなかった人の研究が、引用によって、こういうことだったのか!と理解できた例もありました。若い頃読み囓った書物や、漠然と研究内容を知りつつツンドク関係だった史学者たちのことが理解できて、すっきりした気分にもなりました。通して見ると、改めてマルクス主義の影響が、今となっては不思議な気がするくらい、大きかったことが実感されます。そして史学の前進的活力を痛感します。