デジタル時代の本文校合

中世文学会春季大会シンポジウム「デジタル時代の本文校合」に、オンラインで参加しました。司会は書誌学の佐々木孝浩さん、パネラーは『曽我物語』が専門の小井土守敏さん、和漢比較文学が専門の山田尚子さん、それに金沢文庫学芸員貫井裕恵さんの3人。

やっと入構制限が解け、大学図書館が使えるようになったのに、参考図書の棚が殆ど空になっていて愕然としたのは半年前です。索引、辞書の類はオンライン利用になったらしい。ここ2年くらいで急速にデジタル化、オンライン利用が進んだようです。

有意義なシンポでした。パネラーの人選がよかったと思います。異なる視点からの話を聞くことができました。最近『曽我物語』流布本の本文と注釈を公刊し、『平家物語評判秘伝抄』の翻刻をウェブ上に連載している小井土さんは、現在利用できるデジタル資料の例を挙げ、最終的な点検は必要だが、作業の効率化には大いに有益である、と述べました。山田さんは『史記』古写本の断簡を校訂するに当たって、音注や異体字をどう扱うか、その判断を下すためにも、他の本文をデジタル画像で参照できることは重要であると述べました。貫井さんは仏書の書写活動の研究の経験から、紙背文書や墨影文書の分析にはデジタル技術が有用なこと、寺院伝来の文書の公開には制約が多いが、多様なネットワークとの連携により今後可能になる分野は多いであろうことなどを述べました。

むやみにデジタル能力をひけらかす人はおらず、老若こもごも聴いていられるシンポでした。本文校合を紙ベースで行ってもぶつかる難事の解決法はさておき、デジタル技術は我々に何をもたらし、いかなる危険をはらんでいるのか、広くネットワークを結び合わせていくにはある程度厳密さを捨てねばならないが、何を捨て何をどんな形式で保存するのか等々は他人事ではなく、これからの研究者全員が意識し続けるべき課題です。