木犀の街

朝から雲一つない快晴、詩人が「神様が宝石箱をひっくり返したような」と歌った、美しい季節です。ようやく木犀の香りが漂う街へ、出かけました。用務先は区役所、コインバスに乗る所存で、念のためウェブで時刻表を調べたら、運転手不足で便を半分に減らしたという。30分に1本なのですが、なかなか来ません。先に待っていた老婦人が、遠慮のない視線を向けてくるバス停で、じっと待ちました。

例によって太った和田アキ子みたいな「一葉さん」が、文京区の街案内をするVTR、いかにもそれらしい某女子大生が、明治文学に登場する坂を紹介するVTRが、バスの中で流れます。どれも少女時代を過ごした小石川の風景、いつかゆっくり歩いてみたいなあと思いながら、区役所前で降りました。

証明書類発行の窓口は混んでいました。申請書を書いていると、突然隣でオバサンが大きな声で、「わたしゃ親族でもないのに」と言うので、私に言われたのかと吃驚しましたが、傍にいた亭主に半分独言、半分聞こえよがしに言ったのだと判り、そうそう、トシを取って家にいる時間が長いと、家の居間と外との区別がつかなくなって、空間認識に問題が起きるんだよなあ、と苦笑しました。

用務は30分くらいで済み、本屋へ寄りました。売り場の半分は漫画本になってしまっています。もう来年のカレンダーが出ていました。例年通り犬猫の絵柄ばっかり。蛙尽くしやハシビロコウもありましたが(えっ、蛙?)、とりあえず富士山と花の絵柄を買いました。探していた本2冊の中1冊を買い、1冊を取り寄せ注文して出たら、街はもうとっぷり暮れていました、時刻は未だ5時なのに。東京は秋の足が速い。慌てて干し物を取りこみ、植木に水を遣って、やっと腰を下ろし、本日の戦利品を確認しました。