恒例の七夕古書大入札会の図録が来ました。この会は近代文学が中心なので、開くとまず、近代文学の初版本がずらりと並んでいます。表紙の美しさ、デザインの洗練度に思わず見惚れました。殊に泉鏡花、永井荷風、与謝野晶子、北原白秋らの本は耽美的で、本を読まずとも美術品として愛玩したくなります。一方で島崎藤村や夏目漱石など、内容の重苦しさとデザインとにギャップがある装幀も魅力的。一見少女趣味的に見えるデザインでも、当時の時代的雰囲気の中ではどうだったのだろうと考えると、想像が膨らみます。
朔太郎の『月に吠える』、啄木の『あこがれ』、二葉亭四迷『其面影』、田山花袋『田舎教師』、高山樗牛『滝口入道』、岩野泡鳴『露じも』、横瀬夜雨『二十八宿』、大手拓次『藍色の蟇』(いずれも初版本)・・・具象画であっても内容の直接的表示にはなっていないのに、手に取り、頁を開けてみたくなる誘引力を今なお発揮しています。
我が家の父母の書架には、彼らの時代の「当代」の本がぎっしり詰まっていて、大正昭和の雰囲気を放出していましたが、よく見ると初版本を買ってはいなかったようで、記憶を手繰るとむしろ、年長の従姉たちからお下がりとして譲られた、世界名作全集の雰囲気がこれらに似ています。懐かしさ満開!あの頃、本を読むのは装幀者の名前も含めて、でした。現代の書店に並ぶ初版本たちは果たして、後年、こういう懐かしさ、敬愛を籠めて見られるようになるのでしょうか。
町内会から模造紙を切った短冊が配られ、願い事と氏名を書いて提出するよう指示がありましたが、星への願いは無名のもの。遠慮しました。バスの窓から見た小さなビルの玄関に色とりどりに飾りつけた笹竹が立てられていて、ここには保育士養成学校があったことを思い出しました。明日は晴れるそうで、七夕らしい夜空になるでしょう。