志木便り・散歩属目篇

志木に住んでいる神野藤昭夫さんから、『よみがえる与謝野晶子源氏物語』(花鳥社)という大著が送られて来ました。全470頁、細かい字でぎっしり組まれ、図版もたっぷり入った本です。眼が悪くなった、毎日の散歩で健康をやっと維持している、などとこぼしながらこんな本を出すなんて!晶子の源氏物語現代語訳事業を丹念に追っているらしい。ちょうど八木書店から来た目録に晶子関係の資料が大量に出ており、七夕古書大入札会の目録も手許にあったので、お返しの代わりに送りました。

すると、こんな写メールが来ました。

散歩で見かけた家の飾り窓

最近、我が家の近所でも、3階建ビルを手直しして細い飾り窓を作った家があります。特に商売をしているわけではないらしいのですが、小さな壺や観葉植物が置いてあり、夜は弱い照明が点いています。ゆかしいな、と思いながら見て通ります。

公園の擁壁に揺らぐ影

御本人がつけたキャプションは「実が虚か虚が実か」という、何やら謎めいたものですが、揺れる蔓草を囲うように映った木立の影が詩情をそそります。蔓草は、なぜだか分かりませんが心奥の憧れを刺激するところがある。我が家も今週は洗面台に首の長い硝子瓶を置き、丸葉の菫と梔子の小枝に雪花葛の蔓を活けました。硝子瓶の水、菫や梔子の葉の緑、それに蔓の描く曲線で夏をしのぐ趣向です。

大著の方はゆっくり読んでから、感想を書くことにしますが、カバー折り返しには、晶子の古典力は「古典世界の経験をみずからを支える今日的見識へと汲み上げ、変換する力であって、それこそが、与謝野晶子を大〈文〉学者へと育てる活動の源になった」という惹句が記されています。古典とは元来、そういうものでなければならず、まずはそのために古典を自ら読める機会と能力を、学校教育が用意するのです。