中国南北朝時代

会田大輔さんの『南北朝時代五胡十六国から隋の統一までー』(中公新書 2021)を読みました。会田さんは中国南北朝隋唐時代の政治と文学の歴史が専門で、平成16年度、明治大学修士課程在学中に本基金の奨学生になり、『明日へ翔ぶ―人文社会学の新視点― 1』(風間書房 2008)に「北斉における蕭莊政権人士―「袁月璣墓誌」を中心に―」という論文を書いています。

本書は中国大陸の南北朝時代の始まりとされる北魏華北統一以前、3世紀後半から著述し、6世紀の隋による中国統一まで、370年間の壮大な権力交代史を詰め込んでいます。会田さん自身が、企画を持ち込まれた時は半分パニックになったと告白していますが、門外の私は見慣れぬ漢字の続出に苦心惨憺、相次ぐ権力者交代に右往左往しました。しかし近年、考古学や史料批判の進歩、研究分野の多様化によって中国史は新たな展開を迎えつつあるそうで、会田さんはそういう成果を積極的に紹介しながら書いています。巻末に夥しい参考文献、主要人物紹介、年表を付載、読者のための工夫があります(しかし難読の名詞は、初出箇所だけでなくルビを付けて欲しかった。音が頭に入らないと固有名詞は覚えられない)。

原則として南朝北朝を交互に記述する方針を立て、西晋の崩壊・五胡諸政権、北魏、宋と斉、東魏西魏、梁、北斉北周・陳を記述する章を設けて、最後に「南北朝のダイナミズム」というまとめを置いています。

時々見覚えのある人名や逸話が出てくるのを頼りに読み了え、印象に残ったのは、騎馬民族の文化が世界史に占める大きさです。驚いたのは「子貴母死」という制度の存在、そして権力簒奪に伴う疑心暗鬼が繰り返される、歴史のやりきれなさでした。