開かれた対話

東大臨床倫理学公開講座「治癒に寄与する「倫理」―オープンダイアローグの可能性―」を聞きに行きました。明翔会の山本栄美子さんや大学院後輩の林さんが受付にいました。講師は筑波大学斎藤環教授で、学生や医療・介護現場の人たちで法文2号館の大教室がほぼ一杯になりました。オープンダイアローグとは、フィンランドで1980年代から実践され、すでにシステム化されて実績を挙げている統合失調症のケア技法です。

1984年に、患者についてスタッフだけで話すのをやめる、と決め、薬物療法をできるだけ用いずに、急性精神病の改善・治癒に効果を挙げているそうです。その原則として重要なのは、人間関係で躓いている患者を隔離せず、人間関係の中でとらえる、つまりチームを組んだ医療スタッフが家族や患者と一緒に対話を繰り返すことによって、患者本人に事態を気づかせ、自ら最善の方法を選ばせる、治療者はその専門性に基づく権力関係を持ち込まず、答えのない不確実な状況に耐えながら継続して支援する、ということです。

従来の統合失調症治療から見ると、コペルニクス的転換ともいえる治療法だったようで、治療者の意識改革とチーム作りの制度的保証が必要になりそうです。しかし効果は確実に挙がっているとのことで、患者を「困難な状況にある」まともな人、と見るのがポイントらしい。片仮名だらけの話でしたが、基底にある思想には共感を持ちました。患者自身の「物語」に耳を傾けること、つまり自分の体験に言葉を与えることによって客観化できるのを待つことは、あらゆる教育の基本に共通しています。

理論や主張だけでなく実践に裏付けられた「哲学」を聞きたい、聴衆がこの講座に期待しているのはそういう企画でしょう。私もそうです。