ゆっくり行きます

山本栄美子さんが最近書いたものを持って、訪ねてきました。山本さんは平成18年度、東京大学大学院博士課程でこの奨学金を受け、生命倫理学を専攻しました。論集『明日へ翔ぶ―人文社会学の新視点― 1』(風間書房 2008)には、「学問における「主観性」と「関係性」」という論文を書いています。

山本さんは看護師としての勤務経験もあり、ここ数年、東大の臨床倫理学の研究チームの公開講座の実務を担ってもきたのですが、その間に学位を取得、お母さんを看取り、結婚もし、という具合に人生の節目をつぎつぎ越え、今はいくつかの大学や看護学校の講師をしながら、自分の研究の新しいステップを作りつつあるようでした。

彼女は日蓮宗の信者でもあり、派は違いますが我が家も日蓮宗なので話をしてみると、大工の棟梁だった祖父が博多の春吉に建てたお寺のことを、いろいろ教えてくれました。不信心な私は、かつて我が家の檀那寺だった立正寺(今はコンクリート造りに建て替えられ、創価学会の道場になっている)について何も知りません。読書家だった父があの世で退屈しないように、ちょうど出たばかりの中尾尭『日蓮』(2001 吉川弘文館)を棺に入れましたが、買い直してはおいたもののツンドクのままでした。

2時間以上、さまざまの話をしました。今は看護学校の生徒の2割は男子だそうで、現場に出ると、男性看護師は閉鎖病棟などに配置されることが多いそうです。東大では死生学の大学院もでき、女子学生も徐々に増えつつあるらしい。山本さんは、人間関係学などの講義をしながら、自分のこれまでの研究を見直し、ゆっくりと積み上げていきます、と言っていました。持参したのは、平和を標榜する宗教団体はなぜ今、ロシアのウクライナ侵攻を諫めないのかと問う、危機感に満ちたエッセイでした。