虫たち

やっと蝉が鳴き出しました。年々蝉の声が少なくなります。緑が減り、舗装が進むのに抗しきれなくなったのでしょう。虫は苦手ですが、蝉と蜻蛉と蝶は、身近かにいて欲しい。朝、菊の茂みで茎の擬態をしている青虫を見つけました。私も草花も暑さでぐったりしているのに食欲旺盛、あわや菊は丸坊主になるところでした。

子供の頃は蟻も蝸牛も、蜥蜴(金蛇というのが正しいらしい)も、ごく身近かにいました。梅雨時はヤスデが天井から落ちてきたし、秋には巣立ちする蜂の群れが干してある布団にたかったりしました。夏にはカナブンがダリアの花を食い荒らし、網戸のない窓から電灯めがけて体当たりしてきました。時にはウスバカゲロウの卵(優曇華)が、電灯の笠につくことがあり、親虫も卵も幻想的なのでよく覚えています。物置小屋に青大将の脱ぎ捨てた皮があったり、庭の芝生が一晩で土竜にぼこぼこにされたりもしました。

夏の初めのある朝には、昨夜の父のお土産、と椿山荘の蛍籠が枕元に置いてあり、独特の匂いがしました。冬になって見つけた蟷螂の卵を蛍籠に入れておいたら、生まれた幼虫が細かな網目から漏れ、みんな一丁前に鎌を振り上げて前進する姿に驚いたこともあります。幼年時の湘南地方、大人になってからの小石川や世田谷の家でも、鳥取でも、秋の夜は降るような鈴虫の声に包まれて眠り、鉦叩きも聴きました。

ここでは、秋虫の声はするものの鈴虫が聞かれないのが寂しい。縁日で買ってきて、近所の草地に放してしまおうかと思っているうちに、すっかり草地がなくなりました。