昭和1桁世代

喪中欠礼の葉書が届く季節になりました。知らないお名前だなと思って裏返すと、中村格さんの奥様からでした。この3月に亡くなられたとのこと。儀礼は一切辞退という意味の文言があり、一瞬、一周忌にはお花でも、と思いましたが諦めました。

2017年8月のこのブログに、中村さんの随筆集のことを書きました。中村格さんは能が御専門でしたが、永く学芸大学にお勤めだったので国語教育の業績もありました。日文協の中世部会で、3年がかりで太平記全巻の輪読をしたことがあって、私は会員ではなかったのですが、軍記専門の人がいないので来い、と言われておつきあいし、その時中村さんと知り合いました。ほかには大隅和雄、小林保治、伊東博之、塚本康彦、杉本圭三郎、松田存さんらが参加していて、いま思えば豪華な顔ぶれでした。

中村さんは戦中世代で、戦争責任者に対する激しい憤りと反戦の念を持っておられましたが、普段は穏やかで静かな、争いを避けるというそぶりさえ人に気づかせない、心身共に安定した紳士でした。俳句にも凝っておられたようです。太平記は、さきの大戦で国民の洗脳に利用された、暗い歴史があるのですが、そういう面の明確な受容史はなかなか書かれませんでした。中村さんが先鞭をつけたと言ってもいいでしょう。

数えてみると、今年は94歳だったのですね。ずっと年下の私にも、その後学会で見かけると懐かしがって下さり、講演なども聴きに来て下さいました。最後にお会いしたのはいつだったでしょう。もっと思い出話、中村さんの時代の話を聞いておけばよかった、と思いました。人はいつも、後悔するものですね。 合掌。