玄奘三蔵

佐久間秀範・近本謙介・本井牧子編『玄奘三蔵―新たなる玄奘像をもとめて』(勉誠出版 2021)という本と格闘しました。全584頁、論考18本を収めた論集です。玄奘三蔵は、あの『西遊記』の孫悟空たちがお供する「お師匠様」ですが、7世紀の中国から印度(天竺)へ経典を求める旅をし、持ち帰った原本を漢訳するという大業を成し遂げた僧侶。いま私たちはその漢訳経典を読んでいるわけで、彼の超人的な大旅行が完遂されていなければ、アジアの文化史は今のようではなかったでしょう。本書の口絵の地図を見て、その行程に我が目を疑うほどです。

本書は第1部玄奘の足跡と思想、第2部玄奘をめぐる言説・図像 の2部構成になっていて、それぞれ9本ずつ、印度史、仏教学、美術史、敦煌学、日本中世文学、説話文学などの専門家が書いた論文が並びます。佐久間・近本両氏が書いた「序言」が各論文の要点を紹介しているので、有益です。

私は1-1桑山正進「『西域記』『慈恩伝』読後」、2-1阿部竜一「玄奘訳『般若心経』の特徴」、2-4李銘敏「日本密教文献にみる『深沙神王記』論考」、2-5本井牧子「慈恩大師基をめぐる唱導」、2-6谷口耕生「『玄奘三蔵絵』と中世南都の仏教世界観」、2-7落合博志「『玄奘三蔵絵』の成立」、2-8レイチェル・サンダ-ズ「聖なる絵巻をつくる」、2-9近本謙介「『玄奘三蔵絵』の構造と構想」を読みました。知らない分野なので、文字通り格闘でしたが、2-6,7,8、9が面白かった。

本書を読んで改めて、平家物語は中世人たちの関心の範囲内にある仏教史や高僧伝の主な話題を、しっかり拾って抱え込んでいることを痛感しました。『玄奘三蔵絵』の図版を見ながらふと、合戦絵巻とさほど遠くないなとも思いました。格闘の甲斐がありました。