皇室と茶の湯

依田徹さんの『皇室と茶の湯』(淡交社)を読みました。月刊茶道誌『淡交』の連載をまとめたものです。12の章を立てて、中世・近世・近代の茶事、殊に近代の宮家や政界・軍人が関わった時期のことを記述しています。

史料の上で最初に唐の茶(団茶)を服したのは嵯峨天皇だった(『日本後紀弘仁6年815)そうです。しかし今、宮中での茶会は西洋式のティー・パーティであって、抹茶を点てて賓客をもてなすことはない。茶は日本にとって外来文化であるが、それをもたらしたのは僧侶であり、文化として育てたのは武家であったので、文化史の主役が入れ代わる軌跡を茶の湯の歴史から辿ることができる、と依田さんは言っています。

皇室はこれまでに2度、重大な文化的転換を経ており、1度目は上代の唐文化の受容、2度目は明治初期の欧米文化の受容で、現在の天皇家は近代化=西洋化であった時代の延長線上にある、というのが本書の視点です。要点を押さえた記述で、皇室とその周辺の茶の湯人脈を綴っていますが、書道・陶磁器などの美術とも関連し、断片的にしか知らなかったことが次々につながって、近代史の一面を復習することができます。

依田さんは『近代の「美術」と茶の湯―言葉と人とモノ―』(思文閣出版 2013)という本も出していて、経済人の文化交流や盆栽の名品にも詳しい。本書は140頁強の本ですが、ハードカバーの造本もしっかりしていて、綺麗で貴重な写真がたくさん入っています。