双方の視点

柳沢昌紀編著『日本文化研究における歴史と文学ー双方の視点による再検討ー』(中京大学先端共同研究機構文化科学研究所)という本が出ました。中京大学の文化研究所内の日本文化プロジェクトとして、日本史、日本文学の研究者10名の論文が収められています。あとがきによれば、2015年開催「織豊期の歴史と文学」、2018年「歴史と文学の間」、2020年「古典と歴史」というフォーラムや講演会を基に、歴史学と文学の接点をさぐることを目指したとのことです。

1合戦を記す、2合戦と文事、3絵巻をめぐって、4歴史と文学の間 という構成になっており、まず柳沢昌紀さんの「甫庵『信長記寛永元年版における片仮名活字本版下利用の実態」という論文を(目下、源平盛衰記の古活字版と整版の関係を探る共同研究に関わっているので)、興味深く読みました。2では連歌師の旅や古今伝授の実態を知ることができて、今まで単なる知識でしかなかった15~16世紀の時代性が身近に感じられました。深谷大さんの「岩佐又兵衛の芸能観」は、近年の通説を再検討するもので、蒙を啓かれました。

こういう企画では、けっきょく歴史学も文学も、論題は共有しても、関心と方法はそれぞれの分野から1歩も踏み出さず、同床異夢に終わっている場合が殆どですが、本書では、両分野の差異と共通点をひとまず意識して取り組んでいる点に注目されます。

まもなく刊行予定の軍記物語講座第4巻『乱世を語りつぐ』(花鳥社)は、戦国時代までカバーすることができませんでした。戦国軍記を、史料でなく文学として研究する実績が未だ不十分だからですが、本書の刊行や東大史料編纂所の共同研究開始など、少しずつでも、新しい機運が見られるのは嬉しいことです。