古活字探偵6

高木浩明さんの「古活字探偵事件帖6」(「日本古書通信」6月号)を読みました。前回に引き続き、異植字版とは何か、という問題を扱い、屡々言われてきた「同種の」活字版とは何を指すのか―同じ活字を使った版か、近似した活字で組まれている版なのかを検討しています。

例に挙げたのは、慶長年間出版の叡山版『毛詩』、慶長11年刊の秀頼版『帝鑑図説』、慶長13年刊嵯峨本『伊勢物語』です。結論はいずれも同一の活字セットで組まれた版ではなく、異なる活字を用いた、異版(別版)と呼ぶべきものだということですが、中でも嵯峨本『伊勢物語』再刊本は、使用されている活字の7割程度は初刊本の活字の流用だそうです。こういう現象は全冊の全活字を細かく見ていかないと判明しないわけで、実際、コンピューターによる電子画像分析によって出た結果だったらしい。しかし現実にはありそうなことです。摩滅した活字や、頻用されるので不足しがちな活字だけを新彫する、エコな方法を採ったということでしょうから。

保元物語』諸本を悉皆調査した原水民樹さんも、かつては異植字版というものがどんなものかよく分からなかった、と書誌学の進展に感心していました。異植字版とは、異植「字」版ではなく異「植字盤」(セット)のこと、というのが高木さんの結論です。

本誌は古書店や古書マニア、書誌学者などが執筆していますが、私には春陽堂や八雲書店など両親の書棚に並んでいた懐かしい書影に再会し、宮沢賢治の引き物の本の話や、吉井勇太宰治を愛読したこと、石川透さんの居初つな研究の進展などを知ることができ、楽しめました。のみならず、最近PCを起ち上げる度に勝手に出てくるビング画面が、チャットAIの1種だと知って、大いに有益でした。