太平記要覧

長坂成行編著『校訂『太平記要覧』』(和泉書院)という本が出たと知って、取り寄せました。『太平記要覧』は貞享5年(1688)版の『太平記』梗概書。解説にいう通り、大部な『太平記』には梗概書があると便利ですが、これまで活字化されていませんでした。跋文によれば著者は丹波黒井の岸友治、それに編者岡村寿庵(丈白)・夢月堂露白、叙を書いた木村雪任子が関わったとのこと。流布本を章段ごとに節略しており、巻ごとの要約『太平記抜書』よりも詳しく(全8冊)、節略方法は本書の解説に例示されています。

あとがきにある通り、『太平記』には梗概や研究史を含む手引書があってもいいので、本書の広告を見た当初は、すでにそういう本が出ていて、博学の長坂さんがさらに「校訂」して出したのだと思いました(私自身も四半世紀前、大森北義さんとそういう企画を相談したことがあったので)。源平盛衰記はそれに替えて『源平盛衰記年表』を出しましたが、『太平記』では出ていなかったのでした。

本書は頭注に「章段別参考文献」を付しています。厳格主義の長坂さんが精選した参考文献一覧は有益ですが・・・しかし先行研究へのこだわりや、事典や手引書依存には恐い陥穽があることを、近年痛感しています。それは先行研究の枠から抜け出せなくなること、また知らず知らず「解題」的、「概説」的な視点・文体に填まってしまう弊害です。最近の軍記物語研究には、どうもこの傾向がある。留意して使いたいものです。

折しも思文閣から『古書資料目録 和の史』271号が出ました。新出の写本(桃山期写、36冊、甲類本系統、巻15、16は乙類本。¥250万)と、希少とされる慶長14年古活字版(平仮名付訓、完本40冊、¥1000万)とが出ています。『太平記』には、未だこんなこともあるのですね。